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東京葛飾のコントラバス販売専門店『ベースランド』です!商品紹介や修理調整、工房日記など載せています。

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横板の簡易接着について

みなさんこんにちわ!コントラバス販売専門店ベースランド 代表の下川です。

 

本日は”横板割れ”のお話。楽器ケースの肩紐のバックルが当たったり、置いておいた楽器を蹴ってしまったり、楽器の変形や乾燥などで横板が割れるということがあります。コントラバスは大きいために他の弦楽器に比べるとよくあるんです。皆さんもあるとき割れているのを発見して『どうしよう!直せるのかな?費用は結構かかるのかな?』と心配になるかと思います。

もちろん表板を開けて内側から修理を行うのが”ベスト”ではあります。しかし費用はウン万円、修理期間は2週間から1か月、割れるたびにコストがかかってしまうのかと思うと困ってしまいますよね😭

そんな時に行われるのがワイヤーによって割れを固定し、補強を取り付ける簡易接着法です。今回はそんな”横板割れ”の簡易修理法【ワイヤー接着】に着目してその方法とメリット・デメリットをご説明します。

 

 

修理方法について

その① 割れ接着

これに関しては特別な技法はありません。割れの隙間に膠(以下:ニカワ)を流し込み表板・裏板側からクランプで挟んで接着を行います。

隙間に湿気が入り込み、木が膨らんでしまっている場合があります。板を指で押すなどして動かし毛細管現象(※1)を利用してニカワをしみ込ませます。ニカワは必要に応じてお湯で薄め水のようなシャバシャバなものを使用することもあります。

接着の例外

【板のズレ】隙間の部分で板がずれてしまっており、指で押しても段差が戻らない場合があります。

無理に動かすと板やニスがボロボロになってしまったり、汚れがついてしまったりするため後々ワイヤーにて補強を張る際に割れ接着も同時に行う手法に変更します。

【陥没】割れではなく砕けたような感じになっている場合も同様にワイヤーで引っ張ります。あまりにも複雑な状態だと表板のオープンを余儀なくされることも😱※何かをぶつけてしまったときにおこりやすい

修理依頼をする際の注意

割れを発見したら早めにお持ちください。汚れが入ってしまってニカワが弾かれてしまう場合や乾燥によって隙間が閉まらなくなることがあります。

また絶対に行わないでほしいのはご自身で接着剤をつけてしまうことです。ボンドはニカワを弾いてしまうということ。また隙間に入ってしまった接着剤をニスなどを傷つけずに取り除くことは不可能なためです。仮に陥没した部分にボンドを入れてしまった場合はその状態で固定されてしまうためワイヤーによる矯正は不可能となります。

 

その② カウンターパーツの作製

【ニスが強い塗膜の場合】この方法が試せます。DAISOなどで販売している”おゆまるくん””おゆプラ”などの熱湯で柔らかくなるプラスチック粘土を使用します。

木の板などに乗せてペタッと張り付けると型が取れます。ニスにはくっつかないためラップなどはいりません。(陥没している場合はその付近で型取りします)

【ニスが弱い塗膜の場合】いわゆる”オールド楽器”(※2)の場合にはニスが不安なため木を形に合わせて削って作製します。

なお、割れの状態によっては作らない場合やプラスチックの薄い板のみで代用する場合などもあります。

 

その③ スタッズ(補強板)の作製

割れの内側に”スタッズ”と呼ばれる木の破片を接着し、割れがこれ以上広がっていくのを防ぎます。画像は形をわかりやすくするために合板で見本を作製したものです。実際にはメープルを用いて作製します。

内側の丸みは見えないため想像で作ります。年輪が割れの方向と交差するようにすると強度的に良いでしょう。

 

その④ 横板に穴をあける

急に衝撃的ですが(笑)横板に”ピンバイス”という小さなドリルで穴をあけます。ワイヤーがとおる最小限でのちのち穴を埋めても目立たない様に0.6~0.8mmくらいにします。

 

その⑤ ワイヤーを穴に通す

ワイヤーを穴に通します。ぐりぐりすると穴が広がってしまうので注意が必要

ワイヤーをF孔から取り出します。これは意外と難しくないです。ワイヤが突然飛び出してくることがあるので覗き込みながらやらない様に注意🙏


その⑥ 各パーツをセット

内側にはワイヤー留め(金属の棒≒バイオリン肩当の足パーツ)⇒当て木+ゴム板⇒スタッズの順番にセット。スタッズの内側に接着剤を塗ってF孔からぞろぞろと中に入れていきます。

外側にはカウンターパーツ⇒ワイヤー巻き取り器の順番にセット。

ミラーで内側の様子を見ながらスタッズの方向や当て木がちゃんとカバーできているか確認し接着します。

 

その⑦ ワイヤー巻き取り+接着

その後、全力でペグを巻き取ります。(写真は違う楽器の時になってしまってます。ゴメンネ🙇)ペグは木製だけど折れたりせずにワイヤーを引っ張れます。

 

 

メリット・デメリットについて

メリット

修理費用を1/10~1/20に抑えられる。

修理期間を1/20~1/30に短縮できる。

表板オープンによる楽器状態の変化がない

 

デメリット

段差を戻しきれずに残ってしまう場合がある。

内部のスタッズは削れないためにその部分が極端に分厚くなってしまう。

表面に小さな穴が残る(埋めて着色は行う)

割れのスキマに接着剤が完璧には入れられない場合がある。

 

 

内部の詳しい状態と使用した道具について

中ではこのような状態になっています。

今回しようしたワイヤーはこちらのピアノ線です。ホームセンターに売ってるよ!😊

 

用語解説

毛細管現象】・・・細い管状物体(毛細管)の内側の液体が、外部からエネルギーを与えられることなく管の中を移動する物理現象である。毛管現象とも呼ばれる。地球上での重力に逆らえるほど上昇(場合によっては下降)することもある。主に静電気力が影響している。

極せまい管を水に着けるとその中を液体が登っていく(吸い込まれていく)現象の事。ニカワをスポイトなどで隙間の内部に注入しなくても、表面に塗ることである程度スキマ内部に入り込んでいくのである。

 

【オールド楽器】・・・1800年以前に作られた楽器を指します。情報の伝播が十分でなかった時代であり、製作された地域や流派(スクール)によって、作風の違いが明確です。この時代に、名器と呼ばれる楽器の多くが、バイオリン発祥の地・イタリアで製作されました。一方で、イタリア以外にも、ヨーロッパ各地に個性的なメーカーが存在します。 

バイオリンにおいてはこのような定義があるがコントラバスにおいては1800年代に作られた楽器が数少ないことから1900年代の楽器でもオールドと呼ばれることがある。

 

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